Andy Stott

Andy Stott

アンディ・ストットのドラムマシン・パターンとくり抜いたバストーンの間で調和するベース・ミュージックがクラブ空間に充満し、シャレた男と女がセミダンスに身体を揺らし、オレは悪の支配するこの黙示の時代に、イエス・キリストが再臨し、あらゆる死者をよみがえらせて裁きを行い永遠の生命を与えられる最後の審判を待ち望んでいるんだ、もちろん堕落したオレは選ばれやしないんだけど、と、軽い冗談を交えながら実存主義の欲望を意のままに、日暮れの公衆トイレでオマエと存在論でも語り合えたら可笑しいだろうな、、、" Faith In Strangers " は、セクシー過ぎるほどメランコリックで、ノスタルジアの美しい残響と遅延のダビングテクノだ。 アンディの高齢のピアノ教師、アリソン・スキッドモアのすばらしいヴォーカルを聴いていたら、そんな悲しげで、誘惑的なこと考えてしまった。ところでここのところ多くのアーティストが " Strangers " という単語をよく使うな、と思わないか？ ストットのキャリアのなかでも最も奇妙に統一感がある9曲の完成品、革新と伝統にまたがる稀なアルバムだとさ。でもこのニッポンでアンディ・ストットの形而上の反響の水源、美学が分かるオトナのおんななんているのか？！

パリとオーストリアのザルツブルグで行われたシャネルの " THE STORY OF THE MÉTIERS D'ART SHOW " にはアンディ・ストットの曲 " Science and Industry " や " On Oath " が使われている。このモダンで快適な衣服は、 男性と女性の要素を結合し1950年代初期にスーツの発明によって始められたシャネルジャケットの物語 、1950年代スタイルへのガブリエル・シャネルの返答。「シャネルスーツは、動く女性のために作られる」とココ・シャネルは言い、そのジャケットとともにスーツは女性のワードローブ、自由および偶然の優雅さの必須アイテムになった。アンディ・ストットの音楽をいまだにサブカルとかアンダーグラウンドだと思っていると、笑われるのはキミだ。

「インストゥルメントによる美装、フィールドレコーディング、found sounds、ヴォーカル・トリートメント」「ハイテック・プロダクション・スタイルと異なるアナログ」を横断する、暗い装飾的なアウトサイド・ラップトップ・サウンド。さらにアルバムの9曲のうちの6曲に、ガラス質でエーテルの、シャボン玉のようなスペースを通って浮かぶ声と言われたヴォーカリスト、アリソン・スキッドモアの倦怠ヴォーカルが挿入されているという。歌の人間性の唯一の一瞥、相互結合された不気味な音声。11月19日Modern Loveから発売。インダストリアルやスプライシング・ノイズのグルーヴに少々飽きがきているぼくにとって、2012年の ” Luxury Problems ( ラグジュアリー・プロブレムズ ) ” を受け継ぐ「他のものとは違い心の中でなかなか消えずに、暗さと光による革新と伝統にまたがる精神によって構築されたアルバム」をずっと待っていた。ラグジュアリー・プロブレムズでアンディ・ストットは新しい世界を見つけた。そのアトモスフィアとテクスチュアは低下するムードを一瞬にして引き上げるダブテクノのボトムオクターブの音色。より圧制的で、より寒く、通り抜けてゆくプッシュ・アゲインストの無慈悲な4/4ビート・エネルギー。ジャケットに使われたレースのカーテン越しに見えるニューヨークのビル群を背景にホテルの窓際の空調のうえに置かれた1920年1月24日に結核性髄膜炎で35歳の若さでパリで没したアメデオ・モディリアーニの彫像？、、、エコール・ド・パリの画家であった彼の作品の多くがエジプトやアフリカなどの原始美術と故郷イタリアに息衝くシエナ派など古典芸術の厳格性を融合させ、縦に引き伸ばされたかのような面長の顔とアーモンド形の瞳による独自の人物はキュビスムなど時代の先端をゆく絵画様式とは一線を画す独自の様式であった。アンディ・ストットはここにモダニズムを見る。彼の音楽にみられる感覚の鋭さと凄さは、多くのインダストリアル系アーティストのように短絡的にイスラム世界に目を向けるのではなく、黒人彫刻に影響を受けた簡潔で独特なデフォルマシオンを持つアメデオ・モディリアーニや、それに加え奇蹟を主な題材とし時空は超現実的に歪曲し、しばしば夢のようで彩色も非現実的であると言われたルネッサンス期イタリアのシエナ派（Scuola senese）の後期ゴシック様式に傾倒した優雅で装飾的な画風や神秘主義的な傾向を自身の音楽に吸収する飛抜けたセンスと、同時代意識をアップデーティングし続ける感受性を持っていることだ。